抗HIV薬を飲み続ける大変さ

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今回も前回のコラムに引き続き、本田美和子さん著「エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します」から気になる記事をご紹介しましょう。今回は「抗HIV薬を飲み続ける大変さ」についてです。HIV感染の当事者でもない私が、記事を書くことについて、どうなのかなぁ・・・とも思いましたが、皆さんに情報をお伝えする目的で、記事にしました。

1.薬を飲み始めるタイミング

この本の中で、本田さんは抗HIV治療が始まってから飲む薬について解説をされています。実は私たちがHIVに感染しても、すぐに治療が始まる訳ではありません。ある程度身体の免疫力が低下してきて、これ以上低下すると危険だ、と言う手前で抗HIV治療を開始し、薬を投与します。それまでは検査を継続的に行って様子を見ます。

このとき、免疫力の目安にするのが、CD4の値です。これは、血液1μL中のCD4陽性Tリンパ球の数で す。(1μLは、1リットルの百万分の一です。)普通に健康な人の場合には、CD4値は700から1500と言われています。(700から1300と書かれた本もありました。)

CD4陽性Tリンパ球と言うのは、人間の免疫機能の中枢をつかさどる免疫細胞です。実はHIVはこの細胞に取り付いて、破壊しながら自分のコピーをどんどん作ります。つまり、自分を増やすために免疫細胞を破壊するのです。そのために、私たちはHIVに感染するとどんどん免疫力が低下してしまうのです。

このCD4値が200から350程度になると、坑HIV治療を開始します。これ以下の数値にまで落ちると、日和見感染症に感染する恐れが出てくるためです。健康な人なら問題にならないような病原体に負けていろんな病気に感染し、発症します。詳しくは、「エイズ指標疾患」をご覧下さい。

関連記事:「感染すると、どうなる?」

2.「有効血中濃度」をキープする

HIVに感染しても、免疫力が危険レベルまで低下しないように、体内でHIVが増殖するのをくい止め、CD4の低下をくい止める薬を使います。この薬がHIV感染者の血液中に、ずっとある濃度の範囲を保つように薬を飲み続けます。その濃度を「有効血中濃度」と呼びます。

例えば、今薬を飲んだとします。すると薬は溶けて体内の血液中にまわります。薬を飲んだ直後は血液中の薬の濃度はどんどん濃くなります。でも、時間が経つと段々と濃度は薄くなっていきます。ある濃度よりも薄くなってしまうと、薬の効果がなくなります。つまり、HIVの増殖を抑えることが出来ません。それで、濃度が薄くなり過ぎる前に次の薬を飲むことになります。

こうして、常に血液中の薬の濃度を「有効血中濃度」の範囲に保つ訳です。そのための薬の量や、1日に飲む回数は患者によって異なります。しかし、全体としては医療の進歩に伴って、薬の量も回数も減らせる傾向にあります。それだけ患者さんには負担が軽くなる訳です。

3.もしも薬を飲み忘れたら・・・・

しかし、いくら薬の量や回数が減っても、毎日必ず決められた時間に決められた量の薬を飲み続けなければなりません。これは簡単なようで大変なことです。

私は現在、高血圧症で何年も前から薬を飲み続けています。朝食の後に、2種類の錠剤を計3錠飲むように医師に指示されています。でも、ときどき飲み忘れることがあります。ひどいときには薬が切れても病院にもらいに行かないときもあります。

そんなとき、医師には「飲んだり、飲まなかったりするのが一番危険ですよ。必ず毎日飲んで下さい。」としかられます。でも、それでも飲み忘れることはあります。

本当に頭が痛いとか、高熱が続いているとか、腹痛が激しいとか、そんな自覚症状が続いていれば、恐らく薬を飲み忘れたり、ましてや切らしたりすることはないでしょう。

でも、高血圧症のように自覚症状がなく、しかも数回飲み忘れても何ともない(私がかってにそう思っています)病気だと、ついつい飲み忘れが起きてしまいます。

抗HIV薬も似たところがあります。つまり、何も自覚症状がないのに、飲み続けなくてはならないケースが多いのです。しかし、高血圧症の薬とは決定的に異なる点があります。それは、1ヶ月に3回か4回、薬の飲み忘れがあると、もうその薬は効かなくなってしまうのです。

仮に、朝晩の2回、薬を飲んでいるとします。すると、1ヶ月では60回薬を飲むことになります。この60回のうち、たったの3回か4回、飲み忘れると、もうその薬はHIVの増殖を抑える効力がなくなってしまうのです。

薬を飲み忘れると、効かなくなってしまう。それはいったい、どう言うことなのでしょうか。薬を正しく飲み続けて「有効血中濃度」を保っていると、その間はHIVは増殖することは出来ません。薬がHIVの増殖を抑えているのです。ところが、薬を飲み忘れて「有効血中濃度」を保つことが出来ず、濃度が薄くなったとします。すると、HIVはこのときとばかりに増殖を始めます。

しかも、ただ増殖するだけでなく、薬が効かないウイルスに姿を変えて増殖を始めるのです。ここがHIVの恐ろしいところです。この薬が効かない姿に変わることを、「抗HIV薬に対する耐性の獲得」と呼ぶそうです。文字通り、薬に耐えられる性質を獲得してしまう、つまりは薬が効かなくなるわけです。

そもそもHIVは姿を変えやすいウイルスで、そのせいでワクチンが作れずにいるのです。どこかの時点でワクチンを作っても、すぐにそのワクチンが効かない姿に変わってしまいます。

そんなHIVですが、薬を正しく飲んで、「有効血中濃度」を保っていると、「耐性を獲得」することも出来ず、増殖が抑えられます。こんな事情があるので、抗HIV薬は絶対に飲み忘れてはいけないのです。これは、患者さんにすればかなりのストレスです。

お酒を飲んで酔っ払ったとき。仕事が忙しくて徹夜したとき。国内、海外に旅行に出たとき。患者さんが薬を飲み忘れそうになる機会は日常的にいくらでもあります。でも、必ず飲まなくてはいけないのです。

では、もしも飲み忘れて、薬が効かなくなってしまったら、どうするのでしょうか。その薬自体はもう効力がありませんし、その飲み忘れた薬だけでなく、同じグループに分類される他の薬も効かなくなることがあります。こうなると、また別の性質の薬を使って治療を行うしかないのです。つまり、使えない薬の出現で治療の選択肢が狭くなります。

患者さんの副作用によって薬を選択することもあるし、HIVの増殖を抑える効果を見ながら一番効きそうな薬を選んだりします。ですから、なるべく選択肢は多い方が治療はやり易いのです。

4.耐性を獲得したHIVに感染したら・・・

もしも、HIVに感染して薬を飲んでいる人が、4回以上薬を飲み忘れてしまったとします。すると体内ではその薬に対して耐性を持つHIVが生まれ、増えて行きます。この変異したHIVが、誰か別の人に感染してしまったら、どうなるでしょうか。

実は、感染してしまった人は、最初から耐性を持つHIVを治療することになります。つまり、そのうつされた人は今までに一度も薬を飲んで治療をしたことがないのに、最初から使える薬の選択肢が狭くなってしまうのです。何とも恐ろしい話です。

5.副作用について

抗HIV薬に限らず、どんな薬にでも副作用はあります。抗HIV薬の場合には、飲み始めると生涯飲み続けなければならないため、副作用の問題は小さくありません。

一般に、抗HIV薬の副作用として上げられるのが、コルステロール値が上がる、肝機能障害が出る、手足がしびれる、痩せてしまう、うつ状態になる、などがあります。こういった副作用は患者ごとに症状が異なるため、その人にあった薬を選びなるべく副作用が小さくすむようにします。

こうした副作用を考える時、抗HIV薬によって体内のHIVが減り、CD4が回復した患者さんについて、いったん投薬を中止したらどうかとう臨床試験が2002年に世界規模で計画されました。

アメリカの国立健康研究所を中心に世界各国から6000人の患者さんに参加してもらい、薬をずっと飲み続けるグループと、調子のいいときは薬を飲むのを止めるグループの、2つのグループを作りました。日本からも15人の患者さんが参加したそうです。

この臨床試験の結果、薬を継続して飲むを止めたグループの患者さんたちの方がエイズ発症率、死亡率が高いと言うことが分かり、予定よりも早く臨床試験を中止したそうです。やはり、抗HIV薬は飲み始めたらずっと継続して飲み続けないと効果がないのです。

ここで不思議なのですが、先ほど抗HIV薬は1ヶ月に3回か4回飲み忘れると、効き目がなくなると書きました。でも、飲んだり、飲まなかったりではなく、完全に飲むのを中止した場合には薬に対する耐性は出来ないのだそうです。要するに、「有効血中濃度」を下回る濃度で薬が存在しているときに、その薬の効き目を逃れる耐性を獲得するのです。薬が全くなくなった状態では、耐性は獲得出来ません。

以上の出典は、

「エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します」 本田美和子著 朝日出版社

からです。

こうして考えると、確かに医学の進歩でいい薬が出来て、HIV感染、イコールエイズ発症、イコール死、と言う図式はなくなりました。しかし患者さんには毎日決まった時間に必ず薬を飲み続けなくてはならないストレスと、薬の副作用がつきまとうのです。私が高血圧の薬を飲んでいるのとは比較にもなりません。

今回は本田美和子さんの本から、抗HIV薬を飲み続ける大変さを記事にしました。

関連記事:「HIV・エイズの治療費について」

今はまだ完治することのない病気なら、やはり予防によって自分の身を守り、また、大切な人の身を守るしかありません。そして少しでも不安に思うなら、心配なら、すぐにHIV検査を受けることです。早期発見出来れば、エイズ発症を抑えることが出来ます。

そのHIV検査について、先の本田美和子さんの本の中に出てくる、若い女性の一言がとても印象的でした。

「私自身もそうだけど、本当に自分がHIVに感染しているかも知れないと思っている人は、検査結果が怖くてなかなか保健所に行けません。すんなり保健所に行ける人は、たぶん自分は感染していないと思っている人たちです。」

これは核心を突いた一言だと思います。まさに私もそうでした。何ヶ月も悩み、迷った末にやっと決心してHIV検査を受けました。感染していたらどうしよう・・・その思いが怖くて、検査に踏み出せなかったのです。

しかし、HIV検査を受ける以外に感染の有無を知る方法はなく、勇気を出して検査を受けるしか前に進む道はありません。

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