1989年4月5日、『みんなのためのエイズ手帳』と言う小冊子が西村書店から出版されました。今から約22年も前のことです。この冊子は、主にQ&A形式でエイズについての基礎知識、最新情報を分かりやすく解説する内容でした。

当時、イギリスでエイズについてはトップ研究者だったジョナサン・ウェーバー博士と、「オブザーバー」と言う雑誌の医療・保険の担当だったアナベル・フェリマン記者の二人が編集したもので、日本語訳は山本俊一氏・山本晴美氏の共訳となっています。

私は、この22年前のエイズについて解説した本を、ひょんなことから読むことが出来ました。何しろ22年も前の本ですから、当時の最新情報と言っても今から見れば古過ぎる情報ばかりです。

しかも、本の出版は1989年ですが、内容はそれよりも古く、恐らく1983年から84年くらいに書かれたものではないかと思われます。なぜなら、HIVと言う表記が出てこないからです。この本の中では、エイズを引き起こすウイルスを「HTLV-Ⅲ」と呼んでいます。

1981年、初めてアメリカでエイズ患者が見つかったとき、病原の原因が何であるかは分かりませんでした。ただ、患者が後天的に免疫不全に陥り、そのために日和見感染症を発症しているこは明らかになりました。そこで、1982年にCDC(アメリカ疾病予防管理センター)がこの奇病をエイズ(AIDS)と命名します。すなわち、後天性免疫不全症候群です。

このエイズのウイルスが見つかるのは1984年です。当初はウイルスの名前はHIVではなく、HTLV-Ⅲとか、LAVと呼ばれていました。ほぼ同時に二人の研究者によって発見されたため、それぞれが異なる名前を命名していたそうです。

これが後にHIVと名前を統一されることになります。ですから、『みんなのためのエイズ手帳』はエイズのウイルスは見つかったけど、まだHIVと命名される前の、1984年頃に活字になった本だと思われます。

その本を今読んで見ると、当時はまだエイズについて分からないことだらけだったのがよく理解できます。

例えば、こんなQ&Aがあります。

Q:エイズはどのようにしてうつるのですか?

A:(輸血や注射針の感染を説明した後に、)ウイルスは性交によってもうつります。それは、アナルセックス(肛門性交)によってうつります。また頻度は低いと思われますが、ヴァギナセックス(膣性交)によってもうつります。

エイズ患者がアメリカで発見された当初は圧倒的に多くは男性の同性愛者や麻薬中毒患者でした。普通に異性間でセックスしている人がエイズになることは少ないと思われていたのです。ですから、こんなQ&Aもあります。

Q:エイズは同性愛者だけの病気ではないのですか?

A:エイズ患者は最初にニューヨークの同性愛者たちの間で発見されました。しかし、その後の調査でエイズにかかるのは同性愛者に限らないことが分かりました。エイズになった男性が、セックスで相手の女性に感染させることは分かりましたが、エイズに感染した女性がセックスで相手の男性にうつすことがあるのかどうか、それはまだ不明です。

この回答では男性が女性に感染させることはあっても、女性が男性にうつすことがあるのかどうか、分からないと答えています。当然、女性から男性へ感染することもある訳で、現在では誰でも知っています。でも、当時はそんなこともまだ分からない時代だったのです。

また、こんなQ&Aもありました。

Q:エイズにかかれば必ず死ぬのですか?発病した後どうなりますか?

A:感染者のうち、エイズを発症するのは一部の人だけであることを覚えておいてください。感染はしたけど、無症状という人達が将来どうなるかについては現在のところよく分かっていません。

つまり、HIVに感染してエイズ発症までの潜伏期間が長いため、当時は感染後の予想がつかなかったのです。これも今日では感染者がその後どうなるかは明らかです。何も治療を受けなければ非常に高い確率でエイズを発症します。

この本には、今例を上げたようなQ&Aが100問ほど出てきます。当時HIV感染はまさに致死的疾患であり、エイズが死の病として恐れられている様子がとてもよく伝わってきます。同時に血友病患者や同性愛者がひどい差別や偏見の目でみられていた様子も伝わってきます。(それは現在でも残っていますが)

今、この『みんなのためのエイズ手帳』を読んで一番心に思うことは、この20年間の医学の進歩です。HIVに感染しても必ず死ぬ、と言うことはなくなりました。早期に発見出来ればエイズ発症を抑えることが出来ます。むろん、完全に治ることはまだ出来ませんが、それもいつの日か実現するかも知れません。

HIV感染が未だに不治の病であれば、まずは予防、そして次には検査が大事です。あなたにHIV感染の不安があれば、迷わずHIV検査を受けて下さい。ご紹介した本が出版された頃よりも、エイズ発症までの潜伏期間は短くなっています。⇒『HIV検査があなたの命を救います』


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