TOPコラム一覧コラム(基礎情報)>エイズパニック・高知

今回は、「エイズパニック・高知」と題して、1987年の出来ごとをふり返ってお届けします。

皆さんは松尾徹人(まつおてつと)さんと言う方をご存知でしょうか。今回の主人公はこの松尾さんなのです。松尾さんは、1987年に高知で起きたエイズパニックのとき、高知県の保健環境部長の職にありました。そしてマスコミ対応を一手に引き受け、パニックを無事に鎮静化させた功労者のお一人でした。

高知でパニックが起きる直前には神戸でパニックが、その前年には松本でもパニックが起きていました。高知でのパニックが、松本、神戸の2つのパニックと決定的に異なる結果だったのは、何と言っても患者のプライバシー、人権を守り通したことです。そこには松尾さんを始め、担当職員の方々の必死の取り組みがありました。

本日のニュースソースはこちら⇒「徹人がゆく」

これはご自身のホームページで公開された回想録です。この中に、エイズパニックの回想が記事になって公開されているのです。高知でのエイズパニックがどんなものだったか、松尾さんのご苦労がどんなに大変だったかを分かって頂くには、松本、神戸と直前に続いて起きた2件のエイズパニックについて知って頂く必要があります。

1986年、松本市においてフィリピンから出稼ぎに来ていた女性が、帰国後にHIVに感染していたことが判明します。しかもその女性が売春行為を行っていたと報道されたのです。すると、マスコミ各社は大挙して松本に押し掛けます。フィリピン女性が働いていた店を突き止め、女性のお客だったと思われる男性探しを始めます。

女性の名前や顔写真まで公開され、お客と噂された男性は付近住民から村八分にされたそうです。出稼ぎに来ていた外人女性はみなHIV感染者であるかのように疑われ、しかも飲食店やスーパー、銭湯など大勢の人が集まる場所から入場拒否されます。まさに言われなき差別と偏見です。

翌1987年1月、今度は神戸で日本人女性初のエイズ患者が報告されます。その女性は、外国人の船員からHIV感染したとされました。そして、その女性が多くの男性と売春行為を繰り返していたと報道されます。すると松本の時と同様、多くのマスコミが神戸に押し寄せます。

女性患者は報道された直後に亡くなるのですが、女性の葬儀会場にまでテレビカメラが入り、住所、名前、顔写真が報道されてしまいます。そして、女性のお客だったと思われる男性探しが始まったのです。巷ででは不安になった多くの男性がHIV抗体検査を受けに保健所や医療機関に押し寄せました。

しかし、女性患者が亡くなった後に、一連の報道に対してご遺族が起こした名誉棄損の裁判において、売春行為の事実は否定されるのです。

この当時の世情としては、HIV感染者には2通りあって、1つは血友病患者が薬害で感染したHIV感染被害者。もう1つは、同性愛者や風俗で感染した人たちで、まるで自業自得、感染を広める加害者のごとく扱われたのです。

それゆえ、二次感染を防ぐためには個人のプライバシーや人権よりも、感染者を特定してこれ以上HIV感染を広げないことが優先だとマスコミは主張しました。世間の多くの人々もまた、そう考えました。

HIV感染者は、学校や職場を追われ、頼みの綱の医療機関からさえも受け入れを拒否されることがあったのです。エイズについての正しい知識や情報が少なく、まるでHIVが空気感染でもするかのようなパニックでした。

さて、世の中がこんなパニック状態だった1987年の2月、県の保険環境部長だった松尾さんの元へ、一人の記者がやってきます。「エイズに感染した高知の女性が妊娠していると、近く週刊誌に載るらしいが本当か?」と言う確認だったのです。

松尾さんは驚くと同時に、松本、神戸でのパニックぶりが頭をよぎります。そして、記者からその話を聞いた翌早朝から、松尾さんのご自宅の電話が鳴り始めます。「高知のHIV感染女性が近く出産」と言うニュースが流れ、松尾さんの元へ問い合わせが殺到するのです。

またしてもマスコミ各社は大挙して高知へ押し掛けます。松尾さんは体験したこともない大騒動の中で、ご自分の公務員生活もこれでお終いか・・・と思われたそうです。

しかし、松本、神戸の二の舞にしてはいけない。松尾さんはその日の夜中になって、やっと一息ついて保険環境部の幹部職員を集めて今後の対応策を協議します。

そして、3つの方針をまとめるのです。

1.母親と、産まれてくる子供のプライバシーを守り通すこと。

2.エイズに関する正しい知識、情報を普及させてパニックを抑えること。

3.母子感染なしで出産出来るよう、最善を尽くすこと。

松尾さんは、1番目の方針を徹底させるため、松尾さんご自身に女性感染者の情報を入れないように部下に指示します。そして、マスコミ対応を松尾さんに完全一本化します。患者の個人情報を知らない人が窓口対応をするのですから、情報の洩れようがありません。

いくらマスコミに情報を質問されても、「知らないものは答えようがない」とガンとして突っぱねたのです。その一方で、第2番目の方針も同時に実行されました。HIVの感染ルートを正しく説明し、空気感染などあり得ないことを分かってもらいました。マスコミの記者には、個人のプライバシーや人権を守る大事さを訴えました。

そして、松尾さんたちの努力のかいあって、無事に母子感染することもなく赤ちゃんは産まれ、プライバシーも守られました。松尾さんは、回想録の中で、「最後まで私自身、母親の名前も住所も知らないままだった。」と述べられています。

このときの松尾さんたちの取り組みは全国的に知られるところとなり、高知県はエイズ対策の進んだ県として認知されます。他県からの問い合わせや視察が相次いだそうです。

その後松尾さんは、1994年から2003年まで高知市の市長を歴任されます。まさにかつてNHKで放送されていた「プロジェクトX」の世界です。私も松尾さんの回想録を読むまでは、高知のエイズパニックの裏でそんなご苦労があったことなど知りませんでした。

しかし、1987年に高知でエイズパニックが起きてからすでに23年。今の世の中ではもうエイズパニックが起きる心配はないのでしょうか。一部マスコミによる人権・プライベートを無視した過激報道。HIV感染者やエイズ患者に対する言われなき差別と偏見。どちらも一掃されたとは言えない気がします。

関連記事
「HIV・エイズの歴史」:一連のエイズパニックが起きた当時をふり返ります。

「HIV感染ルート」:パニックを防ぐには、何といっても正しい知識です。

アイコンボタンHIV検査の先送りは「いきなりエイズ」のリスクが増すだけです。
バナー2

やっぱり一番気になるのはHIV。専用の検査キットです。
タイプJ ・HIV検査専用です。(男女共通)
・私はたったの10分で終わりました。

矢印STDチェッカー タイプJ
重複感染するとより重症化したり、進行が早くなったり!
タイプO ・HIV・梅毒・B型肝検査。(男女共通
・HIVと最も重複感染の多い性感染症。

矢印STDチェッカー タイプO
まずはこれだけ検査すれば一安心。感染ルートは皆同じ。
タイプE ・HIV・梅毒・B型肝炎
・クラミジア・淋菌
・一番怖い病気と一番感染者が多い病気

矢印タイプE 男性はこちらから

矢印タイプE 女性はこちらから