つい先日、5月13日付けのウォール・ストリート・ジャーナル日本語版でネット配信されたニュースからあなたにお伝えします。

そのニュースのタイトルは、「抗レトロウイルス剤、早期服用なら感染力弱まる―エイズ臨床実験結果」 と言うものです。

では、そのニュースの内容をあなたにもご紹介することにしましょう。

そのニュースとは、アメリカのノースカロライナ大学・世界衛生感染研究所のマイロン・コーエン所長が率いる、国際研究チームが2005年から開始したある実験の結果を発表したものです。

その実験と言うのは、HIVに感染した人に、早期に抗レトロウイルス剤を投与した場合と、感染症状がある程度進んでから薬を投与した場合とでは、HIV感染者のパートナーに対する感染確率に差が生じるか、と言う実験です。

もう少し詳しく説明しましょう。まず、同研究チームは、ブラジル、タイ、ジンバブエ、インド、南アフリカの13の都市で1,763組のカップルを無作為に選びました。

ただし、この1,763組のカップルはどちらか一方がHIVに感染しているカップルです。感染者の性別は、男性が890人、女性が873人でした。

この1,763組が選ばれた時点では、HIV感染者は全員、免疫不全状態にはなく、エイズを発症していませんでした。

そして、同研究所では、半分のカップルのHIV感染者に直ちに抗レトロウイルス剤を投与しました。残り半分のカップルのHIV感染者には、感染の状況をみながら抗レトロウイルス剤を投与しました。

抗レトロウイルス剤と言うのはHIVが体内で増殖するのを抑える薬です。かつてはHIVに感染しても免疫不全を食い止める手段はありませんでした。

しかし、現在ではすぐれた効果を発揮する抗レトロウイルス剤が開発され、免疫不全を防いだり、いったん低下した免疫力を回復させたりすることが可能になりました。

ただし、この抗レトロウイルス剤は、いったん服用を開始すると障害治療となり、途中で服用を停止することが出来ません。しかも毎日飲み忘れのないよう、決められた時間に決められた量を飲み続ける必要があります。

風邪薬なら1回や1日、飲むのをサボっても問題ないかも知れませんが、抗レトロウイルス剤はそうはいかないのです。

と言うのも、HIVは抗レトロウイルス剤に対して容易に耐性を獲得することが知られており、途中で薬の服用を中断するとその薬に対してHIVが耐性を持ってしまうのです。つまり、薬が効かなくなってしまうのです。

そのため、日本をはじめ、多くの国ではHIV感染者に対して抗レトロウイルス剤の投与は、感染症状の進行具合を観察しながら、免疫力がある基準よりも低下したときに開始するのが一般的となっています。

HIV感染者の負担や副作用も考えて、可能な限り薬の服用開始時期を遅らせているのです。

従って、マイロン・コーエン所長のチームが行った実験は、半数のHIV感染者には従来通りの治療を行い、もう半分のHIV感染者には通常よりも早期に薬の投与を開始したわけです。

さて、その結果、どんなことが起きたでしょう。

従来の治療通り、HIV感染者に対してある期間が経ってから薬を投与したカップルでは、27件のHIV感染が報告されたそうです。

むろん、パートナー以外のルートでHIV感染の可能性もあるので、HIVの遺伝子をチェックして間違いなくパートナーからの感染であることを確認したそうです。

一方、ただちに抗レトロウイルス剤を投与したカップルにおいては、HIV感染はたったの1件しか報告されなかったそうです。

つまり、早期に治療を開始すると1件しか感染しなかったが、ある期間をおいて薬を投与すると27件の感染が発生したと言う結果です。

ニュース記事の中の分析では、早期の抗レトロウイルス剤服用がHIV感染者の体内でHIV増殖を抑えた結果、感染力のあるHIVの量が減ったためとしています。

この実験結果を受けて、アメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアントニー・ファウチ所長は、

「この新たな臨床実験結果は、出来るかぎり早期の感染患者治療が、HIV感染を低減する大きな効果をもたらすことを実証している」

と述べたそうです。

以上がネット上で確認出来た内容なのですが、私はこの記事を読んで、いくつか疑問が生じました。

1.実験結果は分かったが、だからといって、この結果をどう反映させるのか?抗レトロウイルス治療を早期に開始すれば、HIV感染者からの二次感染は確率が低くなるが本人にとってはどんなメリットがあるのか?

途中で述べたように、いったん抗レトロウイルス剤の投与を開始したらもう生涯治療となります。感染者本人の立場から言えば、なるべく薬の投与開始は遅い方がいいはず。このバランスをどう考えるのか?

2.今回の実験そのものに対する疑問もあります。今回選ばれた1,763組のカップルは、全てカップルのどちら一人がHIVに感染しているカップルです。

その感染確率を調べるといっても、では実際の性行為におけるコンドームの使用など、予防対策はどうなっていたのでしょう。

まさか、実験だからと言って、HIVにまだ感染していないパートナーに対して何も予防処置をするなと指示した訳ではないでしょう。それは余りに危険過ぎます。

ネットのニュース記事ではここが明らかにされていません。普通に考えると、ここ、疑問点ですよね。もしもコンドームなどを使用していたとすると、その使用状況が実験結果に影響を与えていた可能性があります。

今後、今回の実験結果がどんな形で私たちの身近に登場するのか注目です。

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