HIV陽性を無断通知された上に解雇された看護師が、病院を相手に訴訟を起こしました。


このニュースは1月13日にテレビ、新聞、ネット上でかなり大きく報道されたのですでにあなたもご存知かも知れません。

特にネット上でこのニュースを読んだ人はHIV関連記事を探したのでしょうか、当サイトのアクセスも通常の2倍に達し、約2000人のアクセスがありました。(翌日にはすぐ通常アクセスに戻りました)

もしかしたら、まだニュースをご覧になっていない人もいるかも知れないので、簡単に内容をお話した上でいったい何が問題なのかをあなたといっしょに考えてみたいと思います。

・・1.無断通知の上に不当解雇?


報道によると、福岡県の総合病院で働く看護師がHIV感染を理由に休職を強要され、その結果退職を余儀なくされたとして、約1,100万円の損害賠償訴訟を起こしました。ニュースソースはこちら⇒『西日本新聞 1/13』

この看護師は昨年6月頃から体調が悪くなり、8月に大学病院でHIV検査を受けたところ、陽性判定を受けました。

大学病院はこの結果を看護師本人に無断で看護師の勤務先である総合病院に通知したのです。

まず、この段階で大学病院は個人情報の守秘義務違反を侵しているとして、看護師はこの大学病院を訴えました。

そして、看護師の勤務先では、大学病院からの通知を受けて看護師に対し、

「患者に感染させるリスクがなくなるまでは休職して欲しい。ただ、90日以上休職すると退職扱いになるが仕方ない。」

と告げ、事実上解雇したそうです。

看護師は、

「HIVを理由に解雇してはならない」

とした厚生労働省のガイドラインに反しており、不当解雇であるとして総合病院を訴えました。つまり、今回この看護師は大学病院と総合病院の2つの法人に対して損害賠償訴訟を起こしているのです。

・・2.なぜこの無断通知、不当解雇は発生したか?


現段階では大学病院も総合病院もコメントを出しておらず、看護師側の訴え内容のみが報道されています。

従って本当に本人には無断の通知であったのか、また不当解雇にあたるのか、不明です。しかし、そこには病院側の色んな思惑があったのではないかと想像できます。

これはあくまでも私の個人的な推測ですが、病院側としては、

●万一、院内感染でも発生すると病院としての責任を追及される。

●HIV陽性の看護師が勤務していると外部に知られたら風評被害が起きる。

こうした事態を心配して、看護師に退職を迫ったのではないでしょうか。

私は医療の専門家ではありませんが、現在ではHIVだけを特別扱いする必要性はないとする指摘を見かけます。

例えば、国立病院機構大阪医療センターの白阪琢磨・HIV/AIDS先端医療開発センター長は次のようにコメントされています。

「医療の進歩で、HIVは寿命を全うできるほどの病気になった。通院 や服薬の必要はあっても、治療を受け症状が安定していれば働くのに支障はない。治療がうまくいけば、血液中のウイルスも測れないぐらい少なくなる。針刺しが万一あっても、感染しないよう対応するマニュアルも病院に整備されている。他の感染症と区別する必要はなくなっている。」

・・◇過去にもあった、似たような退職勧奨


実は、今回とよく似たケースが2010年の4月に報道されています。

当サイトでもこの報道を取り上げ、記事にしました。

『HIV感染を理由に退職勧奨、どう思いますか?』

このケースでは愛知県の大手病院に勤務する30代の看護師がHIV感染症と診断され、病院側の退職勧奨を受けて辞職しました。

この報道の後に病院側は退職勧奨の事実を否定するコメントを出しています。

本当にHIV感染が理由の退職勧奨がなされたのかどうか、その後の報道がないので事実は不明です。でも、いかにもありそうな話です。

こうしたHIV感染を理由とした退職勧奨は病院だけではありません。過去には企業においても同様のケースが起きています。

1992 年、HIV感染を理由に解雇されたとして、勤務先の会社を従業員が東京地裁に訴えました。

この裁判は1995年、会社員 の勝訴となり、HIV感染を理由に解雇してはならないとする判決が出ました。⇒『エイズ解雇訴訟判決』

・・3.厚生労働省のガイドラインとは?


この会社員勝訴の判決が出た1995年、こうしたHIV感染者やエイズ患者に対する差別や偏見を雇用の場で禁止する通知が出されました。

厚生労働省は1995年(平成7年)2月20日付けで、全国の各都道府県の労働基準局あてに

『職場におけるエイズ問題に関するガ イドラインについて』

と言う通知を出しています。

この通知では、HIVに感染していることを理由に解雇してはならないこと、他の病気の患者と同等に扱い差別してはならないことが明記されています。

ただ、この通知には医療現場でのHIV感染者に対するガイドラインが含まれていませんでした。

そのため、医療現場でのHIV感染者はなお差別、偏見の扱いを受けたのです。愛知県の看護師に対して出された退職勧奨もその一例です。

そこで、厚生労働省は2010年(平成22年)4月30日付けで先のガイドラインを改定し、医療に携わる職場においてもHIVを理由に差別したり、解雇しないよう通知を出しました。

『「職場におけるエイズ問題に関す るガイドラインについて」の一部改正について』

従って、今回福岡県で起きた看護師への休職の強要、そして退職させたことは、訴えが事実だとすると総合病院側の不当な扱いであったと言えます。

むろん、大学病院が本人に無断でHIV陽性を総合病院へ伝えたことも不当です。

・・◇結局、大事なことは・・・・


この手のニュースが報道されると、必ずと言っていいほどネット上に書き込まれる意見が、

「HIV感染者の人権とかきれいごと言うけど、ではあなたがHIV陽性の看護師がいる病院で手術を受けることになったらどうですか?他の病院へ替わりませんか?」

というものです。

つまり、人類を愛して隣人を愛せない人が大勢いるように、一般論ではなく当事者として平気か、と言う問題です。

この問いに、私はこう答えます。

「私はHIV陽性の看護師がいるかどうかを問題にはしない。しかし、病院の管理体制は大いに問題にする。」

HIV陽性の看護師を排除して院内感染を防ごうとする病院よりも、HIV陽性の看護師がいても院内感染しない衛生管理を整備している病院の方が信用出来ます。

世の中からHIV感染者やエイズ患者に対する差別、偏見をなくすには、

●私たちみながHIVやエイズに対する正しい知識や情報を身につけること

●感染者のプライバシーを保護すると同時に、職場における安全性を確保すること

この2つが大事なのではないでしょうか。

*「生存率」・「いきなりエイズ」・「潜伏期間」

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